英語科 辻 潔

少し個人的な話をします。私の父は、非常に厳しい人でした。大阪府警に勤める警察官で、毎日決まった時間に出かけ、決まった時間に帰宅し、決まった時間に食事し、決まった時間に寝る人でした。1日に見るテレビの時間は1時間でした。日曜日が休みだからと言って、昼前まで寝るというようなことは許されませんでした。冬の寒い日に、お湯で顔を洗うことは許されませんでした。お湯で顔を洗おうものなら、「そんなことやから、アメリカはベトナムに負けんねん。」と、全く関係のない、理不尽な理由で、叱られました。

父が休みの日は、一緒にスポーツをしてくれました。野球のキャッチボールはもちろん、サッカーボールの止め方、蹴り方を教わったのも父です。ラグビーやアメフト、アイスホッケーのルールも教えてくれました。今はない、日生球場や大阪球場、西宮球場にプロ野球を見に連れて行ってくれましたし、花園の高校ラグビーはもちろん、関東に移転する前の高校サッカーを靭公園や長居陸上競技場に見に行きました。今私が大和田高校のサッカー部の顧問をしているのも、市岡高校サッカー部でサッカーをしていた父のおかげです。

8年前に、77歳で亡くなった父のことをそんな風に振り返るのは、村上春樹の新刊書「猫を棄てる」を読んだからです。全編100ページ弱のエッセイですが、「小村上ワールド」が展開されています。ハルキストなら馴染み深い、描写、ユーモア、話の展開がそこかしこにあり、一度読み始めると、恐らく一気呵成に最後まで読むことになるでしょう。

何も難しいことはありません。副題にあるように、「父親について語」っています。ただ、自分の父親との個人的なエピソードを通して、普遍的なテーマについて考えるきっかけを与えてくれます。歴史であったり、人間関係だったり、人生だったり。私が印象に残った一説を引用します。「そういう意味合いにおいて、ここに書かれているのは個人的な物語であると同時に、僕らの暮らす世界全体を作り上げている大きな物語の一部でもある。ごく微少な一部だが、それでも一つのかけらであるという事実に間違いはない。」もしよかったら、生きる勇気を与えてくれる一冊を手に取ってみてください。